『反脆弱性』では(確率的・統計的に)正しい選択肢(起こりやすい選択肢)ばかりに気を取られるのは良くないと述べられている。なぜなら、①確率・統計は見返りを考慮していない(確率ばかりで、期待値に目が行っていない)し、②そもそも確率・統計は現実世界を正しく予測できない(確率1%を見落とす)からだ。毎回(確率的・統計的に)正しい選択を行えたとしても、確率1%で吹っ飛ぶようではいけない。
そこで、確率・統計ではなく、むしろ見返りだけに注目しようというわけである。
どんなにありえないと思える事象だとしても、①確率で制御されておらず(カジノやテレビゲームはダメ)、②論理上ありうるもので、③大きな見返り(できれば無限大)が予測されるような事象でがあれば、それに突っ込めと『反脆弱性』は言っているのだ。確率は予測できなくても、見返りの大きさは予測できる。
例えば、ベンチャー企業は(将来のいつかは分からないけれども)時価総額が10倍にも100倍にもなる可能性がある。オプション取引も、上手く当てれば100倍になる可能性がある。そして、これらは上記の①~③の条件を満たす。
さらに、「正の見返りが指数関数的に大きくなるものを見付けよ」と著者は述べている。例えば仕事で上司に仕事を頼まれて、頑張って1時間で終わらせた場合と、のんびり3時間かけた場合を考える。頑張って仕事を3倍早く終わらせたとき、上司からの評価ものんびりしたときの3倍になるだろうか、それとも3倍以上になるだろうか。もし上司が時間を大切にする人間で、3倍以上の評価をくれるのであれば、それは「正の見返りが指数関数的に大きくなる」と言える。
2倍頑張って4倍(2の2乗)の見返りが得られ、3倍頑張れば8倍(2の3乗)の見返りを期待できるものを見付けることが大事なのだ。どうやって? 2つ方法がある。1つ目は、やはり(無料の)オプションをかき集めること。そしてもう1つが「脆い」ものを見付けて、その逆側に賭けることだ。
1つ目:(無料の)オプション=対抗策を沢山持っておくというのは、冗長化につながり、「脆くない」状態をもたらすのだった。そしてそれと同時に、これは大きな見返りを見付ける役にも立つ。というのは、たとえ何が大きな見返りをもたらすものか分かっていなくても、取り敢えず全体を選択肢として確保しておけば、その内の何かは当たるからだ。そして当たれば見返りは莫大だから、それは全体をキープしておいたコストを優に上回る。
一般に、オプションを沢山持っておけば、物事を深く考える必要はなくなる。単に、大きな見返り(あるいはトラブル)が目の前に現れたときに、そのオプションを使うのを忘れないようにしておけば良い。オプションを沢山持っておくというのは、攻守共に優れた戦略なのだ。
2つ目:①脆くてかつ②みんなが脆いと思っていないものを見付けて、その逆に賭ける。後付けなので説得力には少し欠けるけれども、例えばLTCMが脆い(=確率1%が起こると吹っ飛ぶ)と分かっていたのであれば、LTCMを空売りしておけば儲けることができたでしょう、というお話である。
反脆いものに比べて脆いものの方が見付けやすい。なぜなら、現代社会が全体として
- 過剰な冗長化を嫌う(最適化・最低コストを愛する)
- 1つのストーリー・戦略にこだわる(ピボットをかけない)
- 一極集中・トップダウンに流れる(全体最適化のためにはこれらが必要なため)
- 変動性を嫌う(1つのストーリーにこだわる以上、ブレられては困る)
という傾向があるため。これらは、先述の脆くない状態を作る方法の反対であって、結果、現代社会はどんどん脆くなっている。
また、少し脱線するが、脆いものの中でも「負の見返りが指数関数的に大きくなるもの」はひときわ脆い。例えば、渋滞を考える。道路上の車が2倍になれば、移動にかかる時間は4倍(2の2乗)程度になると考えられる。3倍になれば、かかかる時間は8倍(2の3乗)だ。被害は一瞬で甚大になる。この手の脆さはオプションをいくら持っていてもカバーしきれない可能性がある。だから、何としても避けなくてはならない。
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